スマホは「壊れたら買い替え」が終わる?電池・画面・USB端子を自分で交換できる「Fairphone」とは
昔の携帯電話は電池を自分で交換できたのに、なぜスマホはできなくなったのでしょうか。12種類の部品を交換できるFairphone Gen 6+を通して、日本での購入・技適・費用・弱点まで検証します。
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iPhone 13を購入して、わずか13カ月。
ある日、スマホの筐体から、何かが現れました。
正体は、膨らんだバッテリーでした。内部から画面を押し上げ、まるでスマホの中に収まりきらなくなった何かが、外へ出ようとしているような状態です。保証が切れた直後を狙ったかのような、絶妙すぎるタイミングでした。ホラー映画かよ。棺桶のバケモンかよ。
スマホ本体はまだ使える。
電池がダメになっただけで、十数万円するスマホを丸ごと買い替える。それって本当に当たり前なのでしょうか。
少し前まで、携帯電話の電池は自分で交換するものだった。背面カバーを外し、弱った電池パックを抜いて新品を差し込む。作業は数十秒。ところが、いま10万円を超えるスマートフォンの電池が劣化すると、予約して修理へ持ち込むか、数万円を払い、場合によっては本体ごと買い替えることになる。
画面が割れた、充電端子が緩くなった、バッテリーが夕方までもたない。壊れているのは端末の一部分なのに、なぜ利用者は自分で直せないのだろう。
その常識に真正面から逆らうのが、オランダのFairphone(フェアフォン)だ。2026年8月に発表された上位モデル「The Fairphone(Gen. 6+)」は、バッテリー、ディスプレイ、USB-C端子、カメラなどを利用者自身で交換できる。必要な工具は基本的に付属のT5トルクスドライバー1本。ソフトウェアと交換部品のサポートも少なくとも2033年まで掲げる。
ただし、日本で使う話になると事情は一気に複雑になる。Fairphoneは日本未発売で、公式の国内サポートもない。技適、通信会社の動作確認、おサイフケータイにも壁がある。「電波をつかめそう」と「日本で安心して常用できる」は同じ意味ではない。
この記事では、Fairphoneを夢のスマホとして持ち上げるのではなく、本当に長く使えるのか、日本人が現実に買えるのか、性能や防水性を犠牲にしてまで修理しやすくする価値があるのかを検証する。
Fairphoneとは?「公平さ」と修理しやすさを売る異色のメーカー

Fairphoneは2013年、オランダ・アムステルダムで設立された。名前にある「Fair」は、端末価格が安いという意味ではない。スマートフォンに使われる鉱物の採掘、部品製造、組み立て工場、廃棄までを含め、そこで働く人と環境にとって、より公平な電子機器をつくろうという思想を表している。
スマホの内部には、コバルト、金、スズ、タングステンなど多くの鉱物が使われる。採掘現場の危険な労働、紛争と結び付いた資源、短い買い替え周期によって増える電子ごみは、完成品の美しい外観からは見えにくい。Fairphoneは調達経路の改善、再生・フェアトレード素材の採用、工場労働者への取り組みを事業の中心に置いてきた。
もっとも、理念だけで大手と競えるわけではない。同社の端末が一般消費者にも分かりやすい価値として提示したのが「自分で直せること」だった。Fairphone 2以降、主要部品をモジュール化し、接着剤に頼らずネジで分解しやすい構造を進化させている。
FairphoneはAppleやSamsungのような巨大メーカーではない。累計販売規模も大手の年間出荷台数とは桁が違う。それでも2025年のGen. 6に続き、2026年には性能を強化したGen. 6+を投入し、欧州中心だった販売を米国へ広げた。ニッチな実験機から、継続的に選べるブランドへ移ろうとしている。
Gen. 6+は、壊れやすい場所を12種類に分けて交換できる
The Fairphone(Gen. 6+)は、前年のGen. 6を全面刷新した別世代ではなく、基本設計を共有する上位モデルだ。主な違いは、プロセッサーがSnapdragon 7s Gen 3からGen 4へ、メモリーが8GBから12GBへ増えたこと。ストレージは256GBで、microSDカードにより最大2TBまで拡張できる。
| 項目 | Fairphone Gen. 6+ | Fairphone Gen. 6 |
|---|---|---|
| 欧州価格 | 649ユーロ | 599ユーロ |
| プロセッサー | Snapdragon 7s Gen 4 | Snapdragon 7s Gen 3 |
| メモリー | 12GB | 8GB |
| ストレージ | 256GB+microSD最大2TB | 同左 |
| 画面 | 6.31インチLTPO AMOLED、最大120Hz | 同左 |
| バッテリー | 4,415mAh、取り外し可能 | 同左 |
| 防塵・耐水 | IP55 | IP55 |
| ソフトウェア | 2033年までサポート | 2033年までサポート |
| 保証 | 最大5年(地域・登録条件あり) | 同左 |
華やかなスペック競争より目を引くのが、利用者が交換できる部品の多さである。公式が用意するのは、バッテリー、ディスプレイ、メインカメラ、超広角カメラ、セルフィーカメラ、トップユニット、受話口、ラウドスピーカー、USB-C端子、SIMトレイ、上側バックカバー、下側バックカバーなど12種類。毎日抜き差しして傷みやすい充電端子まで、基板全体ではなく小さなモジュールだけ交換できる。
米国公式価格では、交換用バッテリーが39.95ドル、ディスプレイが89.95ドル、USB-C端子と受話口が各19.95ドル、メインカメラが69.95ドル。送料や税は別だが、故障箇所だけを注文できるため、修理店の工賃も端末の預け期間も原則として必要ない。
修理専門サイトiFixitが分解したGen. 6では、背面の2本のネジを外してカバーをずらすと内部へ入れる。バッテリーは4本のネジとケーブルで固定され、交換動画では電源オフから再起動まで約2分だった。ディスプレイも接着されておらず、8本のネジを外して交換できる。iFixitの修理しやすさ評価は10点満点だった。
これは昔のガラケーほど手軽な「爪で外して差し替える電池」ではない。それでも、熱で接着剤を軟らかくし、吸盤やピックで画面をこじ開ける現在の一般的なスマホとは別世界だ。なお、交換できるのは基本的に同等の補修部品であり、古いカメラを翌年の高性能カメラへ替えるような自由なアップグレード機ではない。
なぜ昔の携帯は電池を外せたのに、いまは外せないのか
2000年代の携帯電話や初期のAndroid端末では、着脱式バッテリーが普通だった。予備電池を持ち歩く人もいれば、数年後に電池パックだけ買い替える人もいた。それが2010年代、スマホの薄型化と高性能化が進むにつれて姿を消していく。
内蔵式には技術的な利点がある。利用者が何度も開閉するカバーや電池用の硬いケースを省けば、限られた筐体に大きなバッテリーを収めやすい。端末を薄くし、ねじれに強い一体構造をつくり、背面ガラスやワイヤレス充電を採用しやすくなる。接着剤で外周を密閉すれば、高い防水・防塵性能も実現しやすい。
ただし「防水スマホは電池交換できない」が絶対的な法則ではない。着脱式電池を備えた防水端末は過去にも存在し、接着剤を減らしたFairphoneもIP55を取得している。問題は、修理性、防水性、薄さ、重量、製造コストのどこを優先するかだ。
市場は長い間、修理のしやすさより薄い本体、継ぎ目のない外観、カメラ性能、高いIP等級を選んできた。その結果、電池交換は購入後の当然の権利ではなく、メーカーや認定店に依頼するサービスへ変わった。買い替えがメーカーの売上につながる面は否定できないが、「故意に壊れやすくしている」と断定できる根拠はない。消費者が何を評価して買ってきたかも、この設計を定着させた理由の一つである。
8年使う前提なら安い。ただし10万円のミドルレンジでもある
Fairphoneは安価なスマホではない。Gen. 6+の欧州価格は649ユーロ、米国価格は649.99ドル。日本へ転送して税や送料まで負担すれば、10万円を超える可能性がある。一方、搭載チップは最上位ではなく、カメラ、充電速度、ゲーム性能も同価格帯のフラッグシップ級とは競争軸が違う。
それでも長期間使い切れるなら計算は変わる。仮に7万円のスマホを3年ごとに買い、8年間で3台購入すれば21万円。Fairphoneを輸入費込み11万円と仮定し、途中でバッテリーを1回、ディスプレイとUSB端子を各1回交換しても、部品代だけなら合計はおおむね13万円前後に収まる。これは故障回数、為替、送料を仮定した単純な試算であり、必ず得になるという意味ではない。
長期利用には、壊れないこととは別の難しさがある。8年後もCPU性能に不満がないか、銀行や行政のアプリが対応するか、交換部品の在庫が実際に残るかは保証しきれない。スマホを3年で替える理由は故障だけではなく、カメラや通信規格、アプリの要求性能も変わるからだ。
Fairphoneは少なくとも2033年まで、定期的なセキュリティ更新、ソフトウェア更新、交換部品の提供を掲げ、7回以上のAndroid OSアップグレードを予定している。ここで「5年保証」と「2033年までのサポート」は分けて理解したい。欧州向け保証は標準2年に登録条件付きの延長が加わる仕組みで、保証地域外から輸入した人が日本国内で同じサービスを受けられるわけではない。
環境面では、端末を作り直さず使い続ける効果が大きい。iFixitが紹介したフラウンホーファー研究所の評価では、Fairphoneを3年ではなく5年使うと年間の温暖化影響が約31%、7年使うと約44%小さくなる。交換部品にも製造と輸送の負荷はあるが、端末一式を新品にするより、小さな部品を替えて寿命を延ばすほうが合理的だ。
Fairphoneは日本で買える?現状は「気軽におすすめできない」
2026年8月現在、Fairphoneは日本で正式販売されておらず、日本法人や国内正規サポート窓口も確認できない。欧州公式ストアの通常配送先に日本は含まれず、海外発送する第三者販売店、転送サービス、欧州在住の知人などを介して入手することになる。
ここで見落としやすいのが保証である。Fairphoneの案内では、欧州で買った端末を対象地域外で使う場合、ネットワーク接続のサポートは提供せず、保証修理が必要なら対応する欧州住所へ戻す必要がある。日本から海外販売店を利用した場合は、その販売店独自の条件に従う。交換部品が安くても、国際送料、返送、初期不良への対応を考えると、日本の量販店で買うスマホとは安心感が違う。
Androidなので日本語表示や日本語入力はできる。標準Android版ならGoogle Playも利用できるが、プライバシー重視の「/e/OS」版はGoogleサービスを前提としない別製品だ。また、FeliCaを搭載しないため、Suicaなどのおサイフケータイは期待できない。キャリアの動作確認、緊急速報、VoLTE、行政・決済サービスまで含めた国内利用も保証されない。
技適と対応バンドは「つながるか」だけで判断しない
海外スマホの記事で「対応バンドが合うから使える」と説明されることがある。Fairphone Gen. 6+はnanoSIMとeSIMに対応し、日本で使われる複数の4G・5G周波数も仕様表に含む。しかし、ドコモのLTE Band 19や5G n79など一部の重要な周波数には対応せず、通信会社も国内での動作を保証していない。VoLTEや緊急通報は、周波数が一致するだけでは正常動作を判断できない。
さらに、日本国内で電波を発する機器を使う場合は技術基準適合証明、いわゆる技適の確認が必要になる。海外端末には訪日客向けなど一定の例外制度があるが、日本在住者が個人輸入した端末を日常的に使えるという包括的な免除ではない。携帯回線だけでなくWi‑FiやBluetoothも無線設備なので、「SIMを抜けば何をしても問題ない」とは言い切れない。
Gen. 6+について日本の技適取得を示す公式情報は確認できない。したがって本記事では、日本のSIMで通信できる可能性や利用者報告があっても、国内で安心して常用できる端末とは評価しない。購入前には総務省の最新案内、端末の技適表示、利用する通信会社の動作確認を自分で確認する必要がある。
iPhoneも自己修理できる。それでもFairphoneとは思想が違う
大手メーカーも修理する権利への対応を始めている。AppleにはSelf Service Repairがあり、GoogleやSamsungも一部地域で純正部品や手順を提供する。最新世代ではバッテリーを外しやすくした端末や、USB-C端子を独立モジュールにした機種も増えてきた。「Fairphone以外は絶対に自分で直せない」と言うのは正確ではない。
違いは、修理が例外的な作業か、設計の出発点かにある。一般的なスマホの自己修理では、専用工具、加熱、接着剤の除去と再施工、部品の認証手順などが必要になりやすい。Fairphoneは最初から、摩耗・破損しやすい部品へドライバー1本で到達できるように設計している。画面や端子を替えるために、壊れていない部品まで一体で交換する範囲も小さい。
その代償も明確だ。Gen. 6+は厚さ9.6mm、重さ193gで、ワイヤレス充電には非対応。IP55は雨や水しぶきへの耐性は期待できるものの、iPhoneやGalaxyの上位機で一般的なIP68より低い。カメラと処理性能も、同価格帯で最高を求める人には物足りない。日本では正規修理網もFeliCaもない。
結局、Fairphoneの価格にはSoCやカメラだけでなく、修理可能な構造、長期の部品在庫、ソフトウェア保守、素材調達への費用が含まれている。「10万円ならもっと速いスマホが買える」という評価も正しいし、「電池が弱っただけで捨てないために払う」という選択も正しい。何を性能と呼ぶかが違うのだ。
EUでは「長く使えること」がメーカーの善意ではなくなる
Fairphoneの挑戦が面白いのは、一社の理想論で終わらない可能性が出てきたからだ。EUでは2025年6月20日から、スマートフォンやタブレットを対象とするエコデザイン規則が適用された。対象製品には耐久性、バッテリー性能、修理情報、交換部品、ソフトウェア更新などの要件が課され、エネルギーラベルには修理しやすさも表示される。
規則では、主要な交換部品を一定期間提供し、注文後の指定期間内に届けること、OSの最後の販売日から少なくとも5年間更新を提供することなどが求められる。バッテリーにも充放電800回後に初期容量の80%以上を維持する基準がある。すべてのスマホが明日からFairphoneのように利用者自身で分解できるわけではないが、「部品を売らない」「修理情報を出さない」「更新を短期間で打ち切る」という設計は難しくなる。
米国でも修理する権利をめぐる州法が広がるなか、Fairphoneは2026年8月、Gen. 6+で米国直販へ踏み出した。米国公式価格は649.99ドルで、12種類の部品価格も公開している。これは大手キャリアの店頭を一斉に埋める規模ではないが、世界最大級のスマホ市場で「直して使う」という選択肢を正面から売り始めた意味は大きい。
なお、日本でも所有した機器を自分の意思で使い続けられるかという問題は、スマホだけに限らない。購入したゲーム機の機能をメーカーの都合だけに委ねないという議論については、2300ml.comの「PS5がLinuxパソコンになる?1万ドル懸賞の狙い」でも取り上げた。製品を買うことと、その製品を自由に直し、長く使えることは、もはや同じではない。
日本で今すぐ買う端末ではなくても、Fairphoneが突きつける疑問は残る
Fairphone Gen. 6+は、現時点では日本の一般ユーザーへ積極的におすすめできるスマホではない。技適を確認できず、正規販売、国内保証、キャリアの動作確認、FeliCaがない。性能とカメラを基準に10万円級の端末を選ぶなら、国内販売されるiPhone、Pixel、Galaxyのほうが無難だ。
それでもFairphoneには、スペック表に表れにくい価値がある。夕方までもたなくなったバッテリーを約40ドルで替え、接触の悪いUSB-C端子を約20ドルで直し、画面が割れても端末を初期化して何日も預けず、自分の手元で使い続けられる。修理の知識を持たない普通の人を、最初から所有者として扱っている。
昔の携帯電話で当たり前だった電池交換は、技術的に不可能になったのではない。市場が薄さや防水、見た目、買い替えやすさを優先するなかで、選ばれなくなった。その優先順位を逆転させた端末が、ようやく欧州の外へ広がり始めた。
Fairphoneが日本で売れる日が来るかは分からない。だがEUの規制と修理する権利の広がりによって、長期更新や部品供給は「珍しいメーカーの美談」から製品の基本性能へ変わりつつある。次にスマホを選ぶとき、カメラの画素数やベンチマークだけでなく、「電池が弱った3年後も、自分のものとして使い続けられるか」を比べる時代は、すでに始まっている。