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日本政府は「ハッカー」という名前では雇っていない。でも、サイバー人材は雇っている

日本政府は「ハッカー」という名前では雇っていない。でも、サイバー人材は雇っている

日本政府の採用情報に「ハッカー」という職種はほとんど出てきません。しかし、警察、自衛隊、デジタル庁などには、高度な解析やサイバー攻撃対処を担う専門人材がいます。ドラマの天才ハッカーと現実の政府サイバー人材は、何が同じで何が違うのでしょうか。

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ドラマ『VIVANT』には、世界でもトップクラスとされる天才ハッカー「ブルーウォーカー」こと太田梨歩が登場します。

2026年版で太田梨歩を演じているのは、2003年生まれ、長野県出身の俳優・花岡すみれさんです。『ちむどんどん』『ボイスII 110緊急指令室』『素晴らしき哉、先生!』『御上先生』などに出演し、今回の『VIVANT』では、丸菱商事の元財務部員でありながら、突出した技術を持つハッカーを演じています。

では、現実の日本政府にも、ブルーウォーカーのような人物はいるのでしょうか。

政府の採用情報を探しても、「ハッカー募集」という職種名はほとんど出てきません。その代わりに見つかるのが、「情報処理技術者」「技術職員」「サイバー要員」「セキュリティ専門人材」といった名前です。

日本政府はハッカーを雇っていないのか。それとも、呼び方が違うだけなのか。警察庁、防衛省・自衛隊、デジタル庁、国家サイバー統括室などの公開資料から、ドラマと現実の距離を調べました。

花岡すみれが演じる「ブルーウォーカー」とは

花岡すみれさんは、2003年11月9日生まれ、長野県出身の俳優です。所属事務所の公式プロフィールによると、趣味は映画・お笑い鑑賞、フィルムカメラ、人形作り。特技はギターと殺陣とされています。

小学5年生のころ、長野県塩尻市で開かれていた祭りに参加した際にスカウトされたことが、芸能界へ入るきっかけになりました。幼いころから俳優を目指していた花岡さんは、その出来事を自分に訪れたチャンスとして受け止めたといいます。

主な出演作には、ドラマ『ボイスII 110緊急指令室』『ちむどんどん』『クレッシェンドで進め』『特捜9 season6』『素晴らしき哉、先生!』『御上先生』、映画『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』『マイ・ダディ』『水深ゼロメートルから』『違国日記』などがあります。

『VIVANT』で演じる太田梨歩は、丸菱商事の元財務部員であり、「世界でもトップ3に入るハッカー」と紹介される人物です。2023年の第1シリーズでは飯沼愛さんが演じ、2026年版では花岡すみれさんへ変更されました。ただし、配役変更の理由について、TBSによる公式説明は確認できません。

また、花岡さん本人がプログラミングや侵入技術を持っている、あるいは役作りのために実際のハッキング技術を学んだという情報も、公式プロフィールや確認できたインタビューには見当たりません。役柄と本人の技能は分けて考える必要があります。

この記事で注目したいのは、花岡さん本人の技術ではなく、ブルーウォーカーというキャラクターが象徴している「天才ハッカー像」です。

一人でコンピューターへ向かい、組織が欲しい情報を見つけ、複雑な問題を短時間で解決する。そんな人物は、現実の日本政府にもいるのでしょうか。

そもそも「ハッカー」は正式な職業名なのか

「ハッカー」という言葉は便利ですが、意味がかなり曖昧です。

悪意を持って他人のシステムへ侵入する人物を指す場合もあれば、コンピューターやネットワークを深く理解した高度な技術者を指す場合もあります。許可を得て脆弱性を調査する人は「ホワイトハッカー」と呼ばれますが、これも法律で定められた職業名ではありません。

現実の組織では、仕事の内容に応じて呼び方が細かく分かれます。

  • システムを監視するSOC担当者
  • 事故発生時に封じ込めや復旧を行うCSIRT担当者
  • 端末や記録媒体を調べるデジタルフォレンジック担当者
  • 不正プログラムを調べるマルウェア解析担当者
  • 許可された範囲で侵入を試すペネトレーションテスター
  • システムの弱点を調べる脆弱性診断担当者
  • サイバー犯罪を捜査する警察官や技術職員

政府や行政機関では、特に職務、権限、責任を明確にする必要があります。

誰の指揮で動くのか。どのシステムへ触れてよいのか。捜査権限を持つのか。秘密を守る義務はあるのか。事故が起きた場合に誰が責任を負うのか。「ハッカー」という一語では、こうした違いを表せません。

政府が「ハッカー」と呼ばないのは、格好をつけて言い換えているからではありません。曖昧な呼び方のままでは、行政の仕事として成立しないからです。

日本政府は本当にハッカーを雇っていないのか

結論から言うと、公開されている採用情報では、「ハッカー」を正式な職種名として掲げる一般的な事例は確認できません。

一方で、一般にハッカーと結びつけられる技術を持つ人材は、政府機関で正式に採用されています。

警察庁では「情報処理技術者」という採用区分があります。防衛省・自衛隊では、自衛官、事務官、技官、サイバー人材、サイバーセキュリティアドバイザーなどの名称が使われます。デジタル庁では、民間経験を持つセキュリティ担当者や専門人材が採用されています。

内閣官房の国家サイバー統括室は、政府情報システムへの不正な活動の監視・分析、重大な事象の原因究明、行政機関への助言、監査、政策の企画立案や総合調整を担っています。

つまり、日本政府は「ハッカー」という名前では通常募集していません。しかし、監視、解析、脆弱性診断、サイバー犯罪捜査、インシデント対応などを行う人材は、別の正式名称で雇っています。

現実のサイバー人材は、一人で何でもするわけではない

ドラマの天才ハッカーは、侵入、解析、情報収集、追跡、証拠発見まで、一人で何役もこなします。

現実の政府組織は、ほぼ反対です。

ネットワークを監視する人、異常な通信を分析する人、端末から証拠を取り出す人、法律上の判断をする人、被害組織と連絡を取る人、海外機関と調整する人が、それぞれ役割を分担します。

サイバー攻撃が起きたときも、一人の天才が突然キーボードへ向かって解決するわけではありません。

まず異常を検知し、攻撃の範囲を確認します。被害の拡大を止め、証拠となる記録を保全し、原因を調べ、システムを復旧します。その後、再発防止策を決め、必要に応じて警察や関係機関へ連絡します。

速さは重要です。しかし、勝手に触って証拠を壊したり、別のシステムまで停止させたりすれば、被害はさらに大きくなります。

現実のサイバーセキュリティでは、突出した技術だけでなく、組織として手順を守る能力が必要です。

警察庁は「情報処理技術者」を正式に採用している

政府と高度なサイバー技術の結びつきが、最も分かりやすく見えるのが警察です。

警察庁は、正式に情報処理技術者選考採用を実施しています。応募対象には、高度情報処理技術者試験、応用情報技術者試験、情報処理安全確保支援士試験などの合格者が含まれます。

採用された人材は、警察庁本庁や関東管区警察局サイバー特別捜査部などで、サイバー事案への対処、実態解明、被害の未然防止などへ専門的に従事します。

警察庁の技術職員が担う仕事には、警察情報システムの整備・管理、情報セキュリティ対策、電磁的記録の解析、サイバー攻撃の予兆や実態の把握、捜査への技術支援などがあります。

ここで注意したいのは、警察官と技術職員が同じではないことです。

警察官は、捜査、逮捕、取調べ、捜索、差押えなど、法律に基づく警察権限を行使します。一方、情報処理技術者や技術職員は、ログ解析、端末解析、マルウェア分析、システム整備などを通じて捜査を支えます。

高度な技術を持つ職員がいても、その人が単独で好きなシステムへ侵入できるわけではありません。技術力と法的権限は別です。

自衛隊には「攻撃するハッカー部隊」があるのか

防衛省・自衛隊にも、サイバー領域を担当する専門部隊があります。

2025年版防衛白書では、自衛隊サイバー防衛隊などが、防衛省・自衛隊のネットワークを24時間体制で監視し、サイバー攻撃に関する情報の収集・分析を行い、攻撃発生時には速やかに対処すると説明されています。

さらに政府は、2027年度を目途に、自衛隊サイバー防衛隊などのサイバー専門部隊を約4,000人へ拡充し、防衛省・自衛隊全体のサイバー要員を約2万人体制にする方針を示しています。

ただし、「約2万人」という数字を、そのまま「2万人のハッカー」と受け取ってはいけません。

この人数には、サイバー専門部隊だけでなく、システムの調達、維持運営、通信、教育、管理など、幅広い仕事に関わる人員も含まれます。全員が侵入試験をしたり、攻撃コードを書いたりするわけではありません。

では、自衛隊は防御しか行わないのでしょうか。

防衛省は、わが国へのサイバー攻撃に際し、「相手方のサイバー空間の利用を妨げる能力」を強化する方針を公表しています。2025年に成立したサイバー対処能力強化法なども、重大なサイバー攻撃へ対応するための官民連携、通信情報の利用、攻撃元へのアクセスや無害化措置を含んでいます。

したがって、自衛隊や政府が純粋な受け身の防御だけを考えているわけではありません。

一方で、自衛隊サイバー防衛隊が平時から自由に外国のシステムへ攻撃を仕掛けている、あるいは秘密のハッカー部隊が独断で動いている、とまでは公開資料から確認できません。

能力を整備する方針と、個別の作戦を実際に行った事実は分けて考える必要があります。

デジタル庁にいるのは、侵入する人より「事故を防ぐ人」

デジタル庁のサイバー人材は、ドラマで描かれるハッカーとはかなり違います。

デジタル庁が担うのは、政府情報システム、共通基盤、クラウド、認証、行政サービスなどの整備と運用です。

そのため、セキュリティ人材の仕事も、敵を追跡したり他人のシステムへ侵入したりすることが中心ではありません。

システムの設計段階で危険を減らす。クラウドの設定を確認する。調達仕様へセキュリティ要件を入れる。外部ベンダーを管理する。事故が起きた場合の連絡体制を作る。政府共通システムを安全に運用する。

派手さはありませんが、行政サービスを止めないためには欠かせない仕事です。

いちばん政府らしいサイバー人材は、画面に高速で文字を流す人ではなく、事故が起きにくい仕組みを地道に作る人なのかもしれません。

政府は民間のホワイトハッカーにも仕事を頼んでいる

政府の中だけで、すべてのサイバー業務を完結させているわけではありません。

政府機関や独立行政法人は、脆弱性診断、ペネトレーションテスト、セキュリティ監査、インシデント対応支援などを、民間企業へ発注しています。

デジタル庁では「脆弱性診断・ペネトレーションテスト一式」の調達例があり、IPA、J-LIS、NEDOなどでも、情報システムの脆弱性診断やペネトレーションテストに関する入札が確認されています。

これは、ホワイトハッカーに近い技術を持つ民間の専門家が、政府や公的機関の仕事へ参加している明確な例です。

ただし、ドラマのように、正体不明の個人へ電話をかけて「政府のために侵入してほしい」と依頼するわけではありません。

通常は企業や事業者と契約し、調査するシステム、実施期間、使用してよい手法、秘密保持、報告書、責任の範囲を細かく決めます。

同じ侵入テストでも、許可された範囲で行うか、無断で行うかによって意味はまったく変わります。

情報処理安全確保支援士は「国家公認ハッカー」なのか

日本には、サイバーセキュリティに関する国家資格として、情報処理安全確保支援士があります。「登録セキスペ」と呼ばれる資格です。

資格保有者は、専門的な知識や技能を使い、安全な情報システムの企画、設計、開発、運用を支援します。また、セキュリティ対策の調査、分析、評価を行い、その結果に基づいて指導や助言を行います。

インターネット広告や資格スクールでは、「国家公認ハッカー」といった表現が使われることがあります。

しかし、これは正式名称ではありません。

情報処理安全確保支援士の資格を取得しても、他人のシステムへ侵入する権限が与えられるわけではありません。警察の捜査権限も、自衛隊の作戦権限も付きません。脆弱性診断を独占できる資格でもありません。

正確には、「サイバーセキュリティに関する国家資格」です。「国家公認ハッカー」は、分かりやすさを優先した俗称に近い表現です。

政府サイトの弱点を見つけたら、スカウトされるのか

ドラマや映画では、政府機関のシステムへ侵入した人物が、その技術力を評価されて仲間へ迎えられる展開があります。

現実の日本で、同じことを期待してはいけません。

行政サイトや企業サイトの脆弱性らしきものを見つけても、それ以上勝手に試すべきではありません。善意であっても、管理者の許可なくパスワードを試したり、攻撃用の文字列を送ったり、非公開情報へアクセスしたりすれば、不正アクセス禁止法や刑法などの問題になる可能性があります。

脆弱性が存在すると考えたことと、それを実際に悪用して確認する権限があることは別です。

国内には、IPAの脆弱性関連情報の届出制度があります。

弱点らしきものを見つけた場合は、それ以上の検証を止め、必要最小限の情報を記録し、サイト運営者の窓口またはIPAへ報告するのが基本です。個人情報や機密情報を保存したり、対策前にSNSや動画で詳しい手順を公開したりしてはいけません。

弱点を見つけたら政府にスカウトされるのではありません。止まって、適切な窓口へ報告できることこそ、現実のセキュリティ人材に求められる判断です。

天才を公務員の給料で雇えるのか

高度なサイバー人材は、民間企業でも奪い合いになっています。外資系企業や大手セキュリティ企業が高い報酬を提示するなか、政府が普通の公務員給与だけでトップ人材を集めるのは簡単ではありません。

しかし、政府で働く人が全員、同じ給与表の正規職員というわけでもありません。

高度な専門知識を持つ人材を一定期間採用する特定任期付職員制度、非常勤専門家、民間からの出向、官民人事交流、外部アドバイザー、業務委託など、複数の方法があります。

必要な人材を全員公務員として長期間囲い込むのではなく、必要な役割や期間に応じて外部の力を使うわけです。

これは、ドラマのような「政府専属の一人の天才」からは遠い仕組みです。しかし、技術の変化が速いサイバー分野では、現実的な方法でもあります。

日本のサイバー人材は足りているのか

サイバー人材不足は、長く日本の課題とされてきました。

ただし、「約19万人不足」といった古い数字を、そのまま2026年の現状として使うのは注意が必要です。調査した年、対象となる職種、専門人材の定義、将来予測なのか実績なのかによって数字は変わります。

現在の政策では、単純な不足人数だけでなく、必要な役割や技能を定義し、資格制度、研修、演習、民間採用、官民交流などを組み合わせて人材を増やす方向へ進んでいます。

防衛省・自衛隊はサイバー専門部隊の拡充を進め、警察庁は2026年度採用から新しいサイバー・デジタル系の採用区分を設けています。IPAやNICTも、人材育成や実践的な演習を行っています。

日本政府が探しているのは、映画のような万能の天才一人ではありません。

監視が得意な人、解析が得意な人、クラウドに詳しい人、捜査を支えられる人、政策を作れる人、事故対応を指揮できる人。それぞれ異なる専門性を持つ人材を、組織としてそろえる必要があります。

ドラマの天才ハッカーと、現実の政府サイバー人材の違い

ドラマの天才ハッカー現実の政府サイバー人材
一人で侵入、解析、追跡まで行う監視、捜査、解析、法務などを複数部門で分担する
個人の才能が中心組織、手順、権限、責任が中心
必要なら法律の境界を越える法律、契約、職務権限の範囲で動く
短時間で答えを出す証拠保全、確認、報告、復旧を段階的に行う
政府から秘密の依頼を受ける採用、任期付任用、出向、入札、業務委託で関わる
何をしているか周囲にも分からない指揮命令系統と作業範囲が定められている

現実は、ドラマよりずっと地味に見えます。

しかし、地味だから弱いわけではありません。むしろ、国家の安全を一人の能力や判断へ依存させないことが重要です。

一人の天才が不在でも動ける。担当者が交代しても手順が残る。事故が起きたとき、技術、捜査、法務、広報がそれぞれ役割を果たす。現実のサイバー防御に必要なのは、こうした組織の強さです。

政府専属の天才ハッカーは、本当にいるのか

公開資料から確認できるのは、制度化された採用、配置、研修、任期付任用、官民交流、政府調達です。

日本政府が、元ブラックハッカーや正体不明の天才へ極秘任務を一任している事例は、今回確認した公開資料からは見つかりませんでした。

もちろん、国家安全保障や捜査に関する仕事は、すべてが公開されるわけではありません。そのため、秘密の協力者が絶対に存在しないと証明することもできません。

ただし、確認できないものを根拠に「政府は秘密のハッカーを抱えている」と書くことはできません。

公開情報から分かる現実は、もっと組織的です。

警察はサイバー犯罪を捜査し、技術職員が解析を支えます。自衛隊は防衛ネットワークを監視し、安全保障上のサイバー能力を整備します。デジタル庁は政府サービスを安全に設計・運用します。国家サイバー統括室は、政府全体の監視、監査、政策、対処調整を担います。

同じサイバー人材でも、仕事内容も法的権限も指揮系統も異なります。

結論:日本政府にハッカーはいないのではなく、「ハッカー」では実態を表せない

日本政府は、公開されている採用情報では、「ハッカー」という曖昧な名前で通常人を雇っていません。

しかし、一般にホワイトハッカーと結びつけられる技術を含む、多様なサイバー専門能力を持つ人材は、正式に採用されています。

警察庁には情報処理技術者がいます。防衛省・自衛隊にはサイバー専門部隊があります。デジタル庁や国家サイバー統括室には、政府システムの安全や政策を担う専門職がいます。さらに、脆弱性診断やペネトレーションテストは、民間企業へ正規の契約で委託されています。

花岡すみれさんが『VIVANT』で演じるブルーウォーカーのように、一人で侵入、解析、追跡までやり遂げる政府専属の天才ハッカーは、公開資料からは確認できませんでした。

現実にいるのは、職務、権限、責任を細かく定められたサイバー専門職です。

日本政府にハッカーはいない、というより、「ハッカー」という一語では、現実の仕事を説明できないのです。

参考資料

※本記事は公開されている政府・公的機関の資料をもとに整理しています。捜査や安全保障に関する非公開活動の存在または不存在を断定するものではありません。また、脆弱性調査や不正アクセスに関する法的判断は、具体的な行為によって異なります。

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