中国でスタバを超えたLuckin Coffeeとは|安さとアプリで変えたコーヒー文化
スタバが育てた中国のコーヒー市場で、Luckin Coffeeは別の答えを作った。席より速度、接客よりアプリ。その急成長の仕組みを追います。
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Luckin Coffeeは、2017年に中国で始まったコーヒーチェーンだ。
創業から10年もたたないうちに、中国を中心とする店舗網は急拡大した。スターバックスが長い時間をかけて作った中国のコーヒー市場で、新興企業が店舗数と利用頻度を一気に伸ばした。
ただし、Luckin Coffeeは中国版スターバックスではない。
店内で長く過ごす場所より、スマートフォンで注文し、近くの店で素早く受け取る仕組みを中心にした。コーヒーショップの形をまねるのではなく、コーヒーを買う手順そのものを作り替えた。
注文の中心はレジではなくアプリ
Luckin Coffeeの特徴は、アプリを中心に店舗が設計されていることだ。
利用者はアプリで商品を選び、決済し、指定した店舗で受け取る。店舗では注文を聞くためのレジや、長い会話を前提とした接客を減らせる。
この仕組みは、待ち時間を短くするだけではない。
企業側は、どの利用者が、何時に、どの店舗で、どの商品を買ったかを把握しやすくなる。クーポンを配る相手、再購入を促す時間、新商品の反応をデータで調整できる。
スターバックスもモバイルオーダーを提供している。しかしLuckinでは、デジタル注文が便利な追加機能ではなく、事業の中心にある。
座席を減らすことで、出店できる場所を増やした

Luckin Coffeeは、持ち帰りを中心とした小型のピックアップ店舗を大量に展開している。
座席が少なければ、広い物件を借りる必要がない。内装費、家賃、清掃、店舗運営の負担も抑えやすい。
オフィス、大学、住宅地、商業施設の近くへ、小さな店舗を置ける。
スターバックスが「第三の場所」をブランドの中心にしたのに対し、Luckinは、目的地へ向かう途中で受け取れる一杯を作った。
中国の都市生活者にとって、長く座れる場所より、仕事や授業の前に数分で受け取れることが重要な場面は多い。
クーポンは安売りではなく、利用習慣を作る道具
Luckin Coffeeは、頻繁な割引やアプリクーポンで知られている。
大幅な割引は利益を圧迫する。しかし、新しい利用者にアプリを入れさせ、一度注文させ、再び通知を送るための入口になる。
コーヒーを特別な外食ではなく、毎日の飲み物にするには、一杯ごとの心理的な負担を下げる必要がある。
スターバックスの価格がプレミアムな体験を支える一方、Luckinは利用回数を増やす。
高い一杯を月に数回買う人と、割引された一杯を週に何度も買う人。Luckinは後者を巨大な市場へ変えた。
中国人は茶をやめてコーヒーへ移ったのか
「中国は茶の国だからコーヒーが広がらない」という見方は、現実と合わなくなっている。
ただし、茶が消えてコーヒーに置き換わったわけではない。
若い都市生活者の間で、茶に加えてコーヒーを飲む場面が増えた。仕事中のカフェイン、友人との時間、SNSへ投稿する新商品、持ち歩く飲み物として、コーヒーが生活へ入り込んだ。
Luckin Coffeeの商品には、ココナッツ、果物、乳製品、茶の要素を組み合わせたものが多い。
西洋のコーヒーをそのまま教えるのではなく、中国の飲料文化や甘いドリンクの市場へ合わせている。
スターバックスが中国へプレミアムなコーヒーショップ文化を持ち込んだとすれば、Luckinは中国の生活速度と味覚に合わせて作り直した。
スターバックスが市場を育て、Luckinが日常化した
スターバックスの功績を無視して、Luckinの成功だけを語ることはできない。
スターバックスは、中国の都市部でコーヒーへ高い価格を払う文化、店舗で過ごす文化、海外ブランドのカップを持つ文化を広げた。
その市場が育ったからこそ、もっと安く、もっと近く、もっと速い選択肢が成立した。
市場を最初に作った企業が、その市場で永遠に勝ち続けるとは限らない。
スターバックスが「コーヒー店へ行く理由」を作り、Luckinが「毎日コーヒーを買う理由」を作った。
会計不正から戻ってきた企業
Luckin Coffeeは順調に成長し続けた会社ではない。
2020年、売上の水増しを含む会計不正が発覚し、米NASDAQ市場から上場廃止となった。企業への信用は大きく傷ついた。
通常なら、急成長企業の物語はそこで終わる。
しかしLuckinは、中国国内の店舗網と顧客基盤を維持し、経営再建を進めた。商品、アプリ、店舗の利用習慣が、企業スキャンダルを越えて残った。
不正が軽い問題だったわけではない。それでも、サービス自体が消費者の日常へ深く入り込んでいたため、再成長できた。
この復活は、ブランドの好感度だけでなく、便利さが強い防御力になることを示している。
スターバックスとLuckinは何を競っているのか
両社はコーヒーを売っているが、同じものを売っているわけではない。
スターバックスは、店舗空間、接客、カスタマイズ、ブランド、長く過ごせる時間を含む体験を提供する。
Luckinは、価格、速度、アプリ、近さ、頻繁な新商品を組み合わせる。
スターバックスの店へ行くこと自体が目的になる場合がある。Luckinでは、別の目的へ向かう途中でコーヒーを受け取る。
そのため、Luckinがスターバックスより店舗数を増やしたからといって、スターバックスの価値がすべて失われたわけではない。
しかし、日常の一杯という大きな市場で、スターバックスより便利な選択肢が広がったことは確かだ。
米国進出が象徴する立場の逆転
かつて米国のスターバックスが中国へ入り、コーヒー文化を広げた。
今度は中国で育ったLuckinが、米国へ入り、アプリ中心の小型店で挑戦している。
これは店舗数以上に象徴的だ。
中国企業が西洋ブランドを模倣するだけの時代から、中国市場で磨いた小売モデルを世界へ輸出する時代へ変わった。
Luckinの米国事業が成功するかはまだわからない。中国で機能したアプリ、価格、商品が、そのまま米国で受け入れられる保証はない。
それでも、スターバックスにとってLuckinは、中国市場だけの競合ではなくなりつつある。
日本へ来たら流行るのか
日本では、コンビニコーヒー、ドトール、マクドナルド、コンビニのチルドカップなど、安く早く買える選択肢がすでに多い。
Luckin Coffeeが日本へ進出したとしても、中国と同じ成長が約束されるわけではない。
一方、アプリ限定の大胆な割引、持ち帰り中心の小型店、SNS向けの新商品は、日本の若い利用者とも相性がよい可能性がある。
日本のスターバックスが値上げを続ければ、価格差を武器にする企業が入り込む余地は広がる。
日本のスタバ価格については、スターバックス日本上陸30年、値段とメニューはどう変わったのかで整理している。
Luckinが示したのは、コーヒー店の別の未来
スターバックスは、世界中へコーヒーショップという場所を広げた。
Luckin Coffeeは、コーヒーショップから場所を薄くし、アプリと受け取り口を残した。
どちらが正しいという話ではない。
落ち着いて過ごしたい日はスターバックスが選ばれる。時間がなく、安く早く飲みたい日はLuckinが選ばれる。
問題は、その「時間がない日」が現代では非常に多いことだ。
スターバックスの中国事業がBoyu Capitalとの合弁へ移った背景は、スターバックスは中国で負けたのかで詳しく扱っている。
参考サイト
スターバックス コーヒー ジャパン|日本上陸30周年記念コーヒー「スマトラ マサ デパン」
スターバックス コーヒー ジャパン|日本上陸30周年特設ページ
スターバックス コーヒー ジャパン|2026年2月18日からの価格に関するお知らせ
Starbucks Coffee Company|Israel and Gazaに関する公式説明
U.S. SEC|Luckin Coffee 2025 Annual Report
Starbucks Investor Relations|Boyu Capitalとの中国合弁
※記事は2026年8月時点の公開情報と提供された調査資料をもとに構成しています。味覚表現は個人差があり、企業の政治的関係や所有構造については、民族・宗教と企業を短絡的に結びつけず、確認可能な資料を優先しています。