サッカー選手はなぜ靴下に穴を開ける?ふくらはぎの圧迫と科学的根拠
サッカー選手の靴下に並ぶ大きな穴は、破れたのではなく意図的に開けたものです。ふくらはぎの圧迫を減らす狙い、科学的根拠の有無、グリップソックスやすね当てとの関係を整理します。
CONTENTSこの記事のもくじ
サッカーの試合を見ていると、選手のふくらはぎ部分のソックスに、大きな穴がいくつも開いていることがあります。
激しいプレーで破れたようにも見えますが、多くの場合は選手が試合前にハサミで意図的に開けたものです。では、なぜ新品のユニフォームにわざわざ穴を開けるのでしょうか。
主な理由は、きついサッカーソックスによるふくらはぎの圧迫感を減らし、選手本人がより快適にプレーできるようにするためです。
ただし、「穴を開ければ血流が改善する」「足がつらなくなる」「けがを予防できる」といった効果が、科学的に証明されているわけではありません。選手の感覚やルーティンとして定着している面が大きく、グリップソックスを履くために足先部分を切る加工とも、意味が異なります。
この記事では、サッカー選手が靴下に穴を開ける理由を、選手の証言、スポーツ科学、グリップソックス、すね当て、競技規則の面から整理します。
この記事の目次
- サッカー選手が靴下に穴を開ける理由
- なぜふくらはぎ部分に穴を開けるのか
- 血流改善や足つり予防に科学的根拠はある?
- 実際に穴を開けている選手
- グリップソックスを履くためのカットとは別物
- すね当てが小さくなったこととの関係
- 競技規則上は違反にならない?
- 一般の選手も真似する必要はある?
- よくある質問
サッカー選手が靴下に穴を開ける理由は「ふくらはぎの圧迫感を減らすため」
選手がふくらはぎ部分のソックスに穴を開ける最大の理由は、ソックスがきついと感じる場所の張力を逃がすためです。
サッカーソックスは、すね当てを覆い、試合中にずれにくくするため、一般的な靴下よりも長く、脚へ密着するように作られています。ところが、ふくらはぎが太い選手や、試合中に圧迫感を覚えやすい選手にとっては、その密着感が不快になることがあります。
試合ではダッシュ、急停止、方向転換、ジャンプを繰り返します。ふくらはぎの筋肉は何度も収縮し、選手によってはソックスが食い込むように感じたり、しびれや張りを気にしたりします。
そこで、ソックスの後ろ側に数個の穴を開け、生地が引っ張る力を部分的に逃がします。穴の形や数に統一された決まりはなく、大きな穴を三つほど開ける選手もいれば、小さな切れ込みを何個も並べる選手もいます。
2026年のワールドカップでも、ジュード・ベリンガム、レロイ・サネ、メフディ・タレミらが、ふくらはぎ付近に穴を開けたソックスを着用していると報じられました。もはや珍しい光景ではなく、選手ごとの着用スタイルの一つになりつつあります。
参考:Reuters「The beautiful sock game」
なぜ穴を開ける場所は「ふくらはぎ」なのか
穴が開けられる場所は、足首やすねの前側ではなく、ふくらはぎの最も膨らんだ部分であることがほとんどです。
その理由は、脚の周囲が最も太くなりやすい部分にソックスの張力が集中するためです。細い筒状の生地を太い部分まで引き上げれば、当然ながら生地は強く横へ伸ばされます。
特にプロ選手は、一般の人よりふくらはぎの筋肉が発達しています。チームから支給されるソックスの長さや足のサイズが合っていても、ふくらはぎ周りだけがきつく感じられる場合があります。
さらに、トップレベルでは試合ごとに新しいソックスが用意されることもあります。新品は生地がまだ伸びておらず、何度か履いたソックスより締め付けを強く感じやすいという指摘もあります。
プレミアリーグの選手を担当する理学療法士は、英紙The Guardianの取材に対し、新品のソックスはきつい場合があり、試合中にはより圧迫感が増して、しびれやけいれんのような感覚につながることがあると説明しています。ただし、これはすべての選手に起きるわけではありません。
参考:The Guardian「The football sock snip」
穴を開けると生地の張力を逃がしやすい
伸びた布に切れ込みを入れると、その周辺は一枚の生地として張り続けられなくなります。選手が期待しているのは、この単純な物理的変化です。
つまり、ふくらはぎ全体を圧迫していた生地の一部を切り離し、締め付けられている感覚を和らげようとしています。
大切なのは、穴が筋肉そのものへ直接作用するわけではないことです。穴から筋肉が「呼吸する」わけでもありません。あくまでもソックスの張りを弱め、本人が感じる圧迫感を減らす工夫です。
血流改善や足つり予防に科学的根拠はある?
現時点では、サッカーソックスに穴を開けることで血流が改善し、足つりやけがを予防できると示した研究は確認されていません。
WIREDはスポーツ医学の専門家の見解として、穴を開ける行為には生理学的な効果を裏付ける研究がなく、選手個人の経験に基づく現象だと報じています。
参考:WIRED「Why Do Some Soccer Players Cut Holes in Their Socks?」
「きついから血流が悪くなる」と単純には言い切れない
靴下がきつければ、血流を悪くしそうに見えます。しかし、スポーツ用の着圧ソックスは、適切な圧力とサイズで使うことを前提として設計されています。
実際、スポーツ用コンプレッションウェアについては、安静時の静脈還流や筋血流、筋肉の酸素化を高めたとする研究もあります。つまり、脚を圧迫すること自体が、必ず血流を妨げるわけではありません。
参考:Journal of Sport and Health Science掲載研究
一方で、サイズが合っていないソックスや、選手の脚の形に対して局所的に強く食い込む生地は、医療用・スポーツ用に計算された段階着圧とは別物です。
プロ選手が穴を開けているのは、「圧迫はすべて悪い」という意味ではなく、現在支給されているソックスの着用感を、自分の脚に合わせて調整していると考えるほうが自然です。
パフォーマンスが上がるとも証明されていない
2025年に公表されたランニング用コンプレッションウェアの系統的レビューとメタ分析では、51件の研究が検討されましたが、レースタイムや限界まで走れる時間の有意な改善は確認されませんでした。
これはサッカーソックスの穴を直接調べた研究ではありません。ただし、「脚への圧迫を変えれば、すぐ運動能力が上がる」と単純には言えないことを示しています。
参考:Do compression garments enhance running performance?
それでも選手が続けるのはなぜ?
科学的な数値に表れなくても、選手が「楽になった」「違和感が減った」と感じることには意味があります。
トップレベルの試合では、小さな違和感が集中を乱します。スパイクの中の数ミリのずれ、テープの食い込み、ユニフォームのたるみでさえ、選手にとっては無視できないことがあります。
また、ある加工をした試合で良いプレーができれば、その方法がルーティンとして残ることもあります。科学的効果とは別に、安心感や自信につながる可能性があるためです。
穴あきソックスは、筋肉を劇的に変える秘密兵器というより、選手が自分の感覚を整えるための小さなチューニングと考えるのが妥当でしょう。
実際に靴下へ穴を開けている有名選手
ふくらはぎ部分の穴は、特定のリーグや代表だけで見られる習慣ではありません。国内リーグ、欧州選手権、ワールドカップなど、さまざまな大会で確認されています。
- ジュード・ベリンガム
- ブカヨ・サカ
- カイル・ウォーカー
- レロイ・サネ
- メフディ・タレミ
- コナー・ギャラガー
なかでも、カイル・ウォーカーは過去の取材で、ソックスがきつく、ふくらはぎに圧力を感じていたため穴を開けたと説明しています。その状態で良い試合が続いたため、以後も同じ着用方法を続けたという趣旨の発言もしています。
ここからも、理由が単純な血流対策だけではないことが分かります。最初は締め付けを減らすためでも、結果が出ればゲン担ぎや試合前のルーティンへ変わっていくことがあります。
グリップソックスを履くために「足先を切る」のは別の理由
サッカー選手のソックス加工には、もう一つよく見られる方法があります。
それが、チーム公式ソックスの足首から下を切り落とし、筒状のカーフ部分だけを残す方法です。
ふくらはぎに丸い穴を開ける加工とは、目的が異なります。
| 加工方法 | 主な目的 | 加工する場所 |
|---|---|---|
| ふくらはぎに穴を開ける | 締め付けや圧迫感を減らす | ふくらはぎの後ろ側 |
| 公式ソックスの足先を切る | 別のグリップソックスを履く | 足首付近 |
グリップソックスとは
グリップソックスは、足裏にシリコンや摩擦力の高い素材を配置したスポーツ用ソックスです。スパイクの中で足が前後左右へずれるのを抑え、足とシューズの一体感を高める目的で使われます。
一般的なチーム公式ソックスは、ユニフォームの色やデザインをそろえる役割には優れていますが、足裏の滑り止め機能まで備えているとは限りません。
そこで選手は、足には好みのグリップソックスを履き、その上からチームカラーのカーフ部分を重ねます。足首付近は同色のテープや専用バンドでつなぎ、外見上はチームの公式ソックスに見えるように整えます。
Tabioも、サッカー用ソックスについて、足裏のシリコンラバーによって靴との一体感を高める構造を紹介しています。また、ふくらはぎを覆うカーフと高機能ソックスを組み合わせる「セパレートスタイル」が、トップ選手から学生まで普及していると説明しています。
つまり、テレビ画面でソックスの足首付近にテープが巻かれていたり、足の部分だけ色がわずかに違って見えたりする場合は、穴あき対策ではなく、グリップソックスを組み合わせている可能性があります。
すね当てが小さくなったこともソックスの履き方に影響
サッカーソックスが長い本来の理由は、すね当てを覆って固定することです。
ところが近年は、非常に小さなすね当てを選び、ソックスを低い位置まで下げて履く選手も見られます。2026年ワールドカップでも、選手によってソックスの高さやすね当ての大きさに大きな違いがあることが報じられました。
すね当てが小さければ、従来のように厚いロングソックスで膝下全体を強く固定する必要性を感じにくい選手もいます。
ただし、小さければ安全という意味ではありません。すね当ては接触時の衝撃から脚を守る装備です。見た目や動きやすさだけでなく、十分な保護性能があるかを考える必要があります。
靴下に穴を開けるのは競技規則違反にならない?
ソックスに穴を開ける行為そのものを、一律に禁止する競技規則はありません。
国際サッカー評議会(IFAB)の競技規則第4条では、シャツ、ショーツ、ソックス、すね当て、シューズが選手の基本装備とされています。
すね当ては適切な素材と大きさで、ソックスによって覆われていなければなりません。また、ソックスの外側にテープや別素材を着用する場合、その部分と同じ色にする必要があります。
したがって、ふくらはぎの後ろ側に穴が開いていても、装備が危険ではなく、すね当てが適切に覆われ、大会ごとのユニフォーム規定を満たしていれば、直ちに反則になるとは限りません。
ただし、競技会独自の用具規定や審判の安全確認があります。アマチュアの大会や育成年代では、プロの試合で見たから必ず認められるとは限りません。試合前にチームや大会運営へ確認したほうが安全です。
一般の選手もサッカーソックスに穴を開ける必要はある?
現在のソックスに強い圧迫感やしびれがないなら、プロ選手をまねして穴を開ける必要はありません。
プロ選手は筋肉量、プレー強度、支給品の状態、試合ごとの用具管理が一般の選手とは異なります。毎試合新品に近いソックスを履く選手と、何度も洗って生地がなじんだソックスを履く一般の選手では、締め付け方も変わります。
穴を開ける前に、次の点を確認してみましょう。
- ソックスのサイズが脚に合っているか
- ふくらはぎ部分を必要以上に引き上げていないか
- 折り返しやテープが一部へ食い込んでいないか
- すね当ての固定が強すぎないか
- より伸縮性のあるカーフソックスを選べないか
- グリップソックスとのセパレート方式が認められている大会か
サイズ変更や別製品への交換で解決できるなら、新品のソックスを穴だらけにする必要はありません。
痛み・しびれ・足つりが続く場合は用具だけの問題と決めつけない
足がつる原因は、筋疲労、暑熱環境、体調、運動強度など複数の要因が関係します。ソックスへ穴を開ければ必ず防げるものではありません。
プレー中に強い痛みやしびれを繰り返す場合は、ソックスの加工だけで済ませず、チームのトレーナー、医療機関、用具に詳しいスタッフへ相談してください。
自然に破れた穴と、選手が開けた穴の見分け方
サッカーソックスには、摩擦によって自然に穴が開くこともあります。意図的な穴との違いは、穴の位置と並び方を見ると分かりやすいです。
| 穴の状態 | 考えられる原因 |
|---|---|
| ふくらはぎの後ろに複数の大きな穴が並ぶ | 圧迫感を減らすために意図的にカット |
| 足首で真っすぐ切り離されている | グリップソックスとのセパレート加工 |
| つま先やかかとに小さな穴が一つある | 爪、摩擦、サイズ不良などによる自然摩耗 |
| すねやくるぶしに不規則な破れがある | 接触、スパイク、人工芝などによる損傷 |
選手のふくらはぎに同じような大きさの穴が縦に並んでいたら、試合中に偶然破れた可能性は低いでしょう。あれは雑な修理跡ではなく、本人なりのフィッティング調整です。
サッカー選手の靴下に関するよくある質問
サッカー選手は血流を良くするために穴を開けているの?
選手やメディアでは、ふくらはぎの圧力を逃がし、血流を妨げにくくするためと説明されることがあります。ただし、穴を開けることで血流や競技能力が改善すると直接示した科学的研究は確認されていません。より正確には、選手本人が感じる締め付けや不快感を軽くするための加工です。
穴を開けると足がつりにくくなる?
足つりを確実に防げるとは言えません。ソックスが極端にきつく、それが不快感の原因なら楽になる可能性はありますが、筋疲労や環境、体調などほかの原因には対応できません。
なぜ最初からゆるいソックスを作らないの?
サッカーソックスには、すね当てを覆い、ずれを抑え、ユニフォームの外観をそろえる役割があります。全体をゆるくすると、今度はたるみやずれが起きる可能性があります。また、同じ製品でも選手ごとにふくらはぎの太さが異なるため、全員に同じフィット感を提供するのは簡単ではありません。
グリップソックスは本当に意味がある?
足裏の滑り止めによって、スパイク内でのずれを抑える目的があります。使用感はスパイク、インソール、足の形によって異なります。着用する場合は、大会の色や用具規定も確認しましょう。
子どもがプロ選手をまねして穴を開けても大丈夫?
サイズが合っていて不快感がないなら、積極的に穴を開ける必要はありません。切り口が広がってすね当てを保持できなくなったり、大会規定に合わなくなったりする可能性があります。まずは保護者や指導者へ相談し、サイズや製品を見直すほうが先です。
まとめ:穴あきソックスは科学的な秘密兵器ではなく、選手ごとの調整
サッカー選手がふくらはぎ部分の靴下に穴を開けるのは、主にソックスの締め付けや圧迫感を減らし、快適にプレーするためです。
- ふくらはぎの最も太い部分へ穴を開け、生地の張力を逃がしている
- 血流改善、足つり予防、能力向上を直接証明した研究はない
- 本人の快適性や安心感、ルーティンとして続けている面もある
- 足先を切る加工は、グリップソックスを履くための別の工夫
- 競技規則では、すね当てをソックスで覆い、安全性や色の規定を守る必要がある
- 一般選手は、まずサイズや着用方法を見直すべき
テレビで見る穴だらけのソックスは、単なる破れでも、全員がまねすべき最新トレーニングでもありません。
スパイクのひもを締め直すように、選手が自分の感覚へ用具を合わせる小さな調整です。見た目は大胆ですが、その正体は意外と地道なフィッティングなのです。
参考資料
- WIRED:Why Do Some Soccer Players Cut Holes in Their Socks?
- Reuters:The beautiful sock game
- IFAB:Law 4 – The Players’ Equipment
- The Guardian:The football sock snip
- Journal of Sport and Health Science:Do compression garments enhance running performance?
- Journal of Sport and Health Science:Sports compression garments and lower-limb blood flow
- Tabio SPORTS:フットボールソックス